コンピューターの「Mac」と聞いてみなさんは何を連想しますか?
読み方はファーストフードのマクドナルドのマックと同じですが、頭の中に思い浮かぶのはまったく違うイメージですよね。
知っている方も多いと思いますが、Macは1984年に、IBMのパソコンに対抗するためにAppleが発売開始したMacintoshを譜系とするコンピューターの総称です。
Macintoshは販売開始の年のスーパーボールで放映された、ジョージ・オーウェルの『1984』を連想させるテレビ広告でも有名ですね。
Macといえば、次のようなイメージが思い浮かぶのではないでしょうか。
- クリエイティブ
- カッコイイ
- 高級
- 安定している
- ウイルスに強い
- スタバを占領
スタバの占領現象は最近のことですが、Macといえばクリエイティブ系というイメージは1980年代から続く多くの人が抱く強烈なイメージでしょう。
実際、筆者を含め、写真、イラストレーション、音楽、最近はYouTubeの動画などを作成しているクリエイターまたはクリエイティブ系のMac利用率はかなり高いです。
では、なぜクリエイターたちはMacを選ぶのでしょうか?
派生的な理由はたくさん考えられますが、最も根本的で重要な理由は次の3つに集約されます。
- 仕事に集中させてくれる
- すばらしいデザイン
- 伝統
とってもシンプルですね。
3つの理由のうち「すばらしいデザイン」を見て、当たり前だと思いませんでしたか?もし、すばらしいデザイン=見た目(かっこよさ)と思ったのであれば、なおさらこの記事をよく読んでいただきたいなと思います。
クリエイティブ系がMacを選ぶ理由を3つ紹介したところで、それぞれの理由についてより詳しく見ていきましょう。
1.仕事に集中させてくれる
クリエイティブな仕事をする上で重要なことってなんだと思いますか?
創作活動に集中できることです。
クリエイティブな仕事は、部外者からみると華やかで「センス」が問われるものというイメージを持ちますが、実際は信じられない数の試行錯誤を繰り返す泥臭い仕事です。
例えば、高級掃除機の代名詞であるDysonは、創始者が5000個以上の試作品を作った結果生まれたという話は有名です。Dysonほど有名でなくとも、人の心を動かすプロダクトやサービスの影には、大小の差はあれど必ず試行錯誤があります。
では、Macがどのように仕事に集中させてくれるのでしょうか?
機能面に注目すれば、WindowsとMacの差は現在ほとんどありません。Windowsユーザーからすれば、MacでできることはWindowsでも全部できるなら ”高級” なMacを選ぶのは非合理的にも思えます。
特にヘビーユーザーは、機能や数字上の性能にこだわる方が多いので、このように感じたとしても不思議はありません。
しかし、Windowsは基本的に自分の好きなようにカスタマイズすることによって、最高のパフォーマンスを発揮するツールです。WindowsがMacと同等というのはカスタマイズが終わった後の話。
デザイナーはパソコンを使うのが仕事ではなく、パソコンを使ってデザインをするのが仕事です。クリエイティブ系の多くの人は、カスタマイズをしている時間がありません。
徹夜続きで体力の限界と締切が迫ってきているときに、設定やトラブルシューティングをすることを想像してみてください。
経験のある方はわかると思いますが、クリエイティビティは限りなくゼロに近づき、怒りに支配されます。
Macの良いところは、面倒な設定なしに、必要なときにきちんと作動してくれるところ。
MacBookを購入したことがある方はわかると思いますが、箱から開けるとすぐに使えます。再充電する必要もないですし、セットアップで各種ドライバーのインストールで時間を取られることもありません。
セキュリティアップデートなども、パソコンを使っていない間にダウンロードしてすぐに使える状態に整えてくれるPower Napという機能もあります。
ですから、Macは、本当にクリエイターがパソコンを使うことだけに集中させてくれるツールなのです。
Power Napについては、こちらの記事で紹介しています。
2.すばらしいデザイン
デザインと聞くとどうしても見た目のことだけに注目していしまいませんか?
見た目がカッコイイのはもちろん重要ですが、Macの本当のよさは、「使いやすさ」、「わかりやすさ」などのユーザ体験(UX)を含む総合的なデザインです。
例えば、Windowsの操作ボタンは、「OK」や「はい」とするものが多かったのに対し、Macでは「印刷」や「保存」など何のためのボタンなのかが明記されています。
パソコンのパワーユーザにとっては「OK」でも「印刷」でも大きな違いはありませんが、パソコンが苦手な方には重要な違いでしょう。
また、WindowsとMacのデザインの違いは、シャットダウンの方法にも現れています。
Windows XPを思い出してください。
終了(シャットダウン)するのになぜか「スタート」をクリックしてましたよね?
なにかのジョークでしょうか?
人によってはパソコン特有の表現を学ぶことも仕事の一部だと思う方もいると思いますが、クリエイティブ系からすれば、創作活動をするためにパソコンの操作を学ぶ時間は無駄でしかありません。
上記の例は、「わかりやすさ」を表した話ですが、Macは使いやすさも抜群です。
簡単な例としては、ユーザーインターフェイス(UI)の一貫性があげられます。
Macは、2011年のバージョン10.7の「Lion」からのオペレーティングシステム(OS)を毎年アップデートしていますが、UIはあまり変わっていません。機能はどんどん追加されていますが、UIが統一されているので新しいOSでも同じ操作感で使えるのが特徴。
一方でWindowsはというと、OSごとでUIがころりと変わることは珍しいことではありません。
記憶に新しいのが、Windows7からWindows8への変更。ユーザーの使いやすさを犠牲にして、パソコンのUIを無理やりスマートフォンのタッチUIに変えようとした結果ですね。
「わかりやすさ」と「一貫性」は見た目ほど注目されませんが、実は、デザイン界の巨人ディーター・ラムスの「良いデザイン」の十か条に含まれています。
ですから、デザインを良く知っている人ほど、Macのデザインを受け入れやすいのは間違いありません。
3.伝統への追従
現在のMacの機能やデザインだけでクリエイティブ系がMacを選ぶ理由を説明することもできますが、Mac=クリエイティブというイメージが形成された歴史的背景も見逃せません。
Macintoshが1984年に発売された当時の話をする前に、Macを現在のiPhoneに置き換えて説明しましょう。
ご存知の通りiPhoneは日本で圧倒的な人気を誇っています。Appleのブランド力やiPhone自体の機能によるところも大きいですが、「みんなが使っている」という事実も理由の一つです。
日本人の同調意識の話だと思うかもしれませんが、そうではなく資本主義のメカニズムです。
つまり、次のような経済的サイクルが生まれることで人気が高まります。
- iPhoneが実質0円でAndroid携帯が上陸する前に発売開始
- スマートフォン市場を独占
- 当然売れる
- デベロッパーがiPhone用アプリを(Android用に)優先して作る
- Appストアで何でもそろう
- iPhoneがもっと売れる
- メーカーがiPhone用のアクセサリーに力を入れて大量に販売する
- アクセサリーのかわいさからiPhoneを選ぶユーザーが増える
- さらにiPhoneが売れる
- 4~6と7~9を繰り返す
上記の10が繰り返されると経済のエコシステムが完成します。Apple以外の会社のアプリやアクセサリーがiPhoneの販売をさらに促進するので、いくらAndroidが安さを武器にしても消費者の心は動きません。
そしてこれとまったく同じことが、1984年にMacintoshが販売された当時、クリエイティブ業界で起こったのです。
より具体的には、Mac(Apple)がデスクトップパブリッシング業界を切り開いたことにより次のようなサイクルがおこりました。
- Mac専用にデザイン系のキラーアプリが開発される
- キラーアプリを必要とするクリエイティブ系がMacを買う
- Mac=クリエイティブのイメージが確実なものとなる
- 1から繰り返し
デスクトップパブリッシングは印刷業界で働いていなければ聞き慣れない言葉だと思いますが、簡単に言えばパソコンで印刷のレイアウトを作りプリンターで印刷することです。
パブリッシング業界の始まり
Appleは、パソコンで印刷するときに必要な次の3要素のうちソフトウェア以外の2つを作り出すことで、デスクトップパブリッシング業界を作り出しました。
- パソコン
- プリンター
- Wordなどのソフトウェア
Macが発売される前からコンピューターはありましたが、Macが普通のユーザーがマウスで操作することを可能にした最初のいわゆるパーソナルコンピューターです。
当時のパソコンと言えば映画「マトリックス」に出てくる緑の文字列が小さい画面に点滅するオタク専用のツールだったので、マウスで操作できるMacの販売はコンピューター業界に大きな影響をもたらしました。
実際、その後すぐにアルダス社が、パソコン上でデータのレイアウトを可能にする「ページメーカー」と呼ばれるデスクトップパブリッシングのソフトウェアの販売を開始します。それに合わせてAppleがLaserWriter(レーザーライター)というレーザープリンターを販売したことで、デスクトップパブリッシング業界が生まれたのです。
アルダス社は聞き慣れない会社ですが、実はPhotoshopで有名なAdobeが買収したことで、ページメーカーはInDesignとして現在に続いています。
当時のデザイン系のキラーアプリはMac専用
AppleがMac、レーザープリンター、ページメーカーでデスクトップパブリッシング業界を作ったことで、他のソフトウェア会社がMac専用のアプリを作り始めました。
なぜMac専用だったかというとWindowsは販売がほぼ2年遅れたからです。また、この当時のMacとWindowsの差は大きいだけでなく、互換性もない状態でした。
では、当時相当高価だったMacを購入しようと思わせるほどのキラーアプリがなんだったかわかりますか?
現在クリエイティブ系に必須のあのアプリです。
ずばり、Illustrator(イラレ)とPhotoshop(フォトショップ)です。
実はAppleとAdobeの関係は非常に長く、Appleが販売したレーザープリンターの印刷を可能にしたのがAdobeが開発したPostScriptという技術でした。さらにAdobeが自社用に作ったPostScript編集ソフトがIllustratorとして1987年一般販売が開始されたという経緯があります。
この歴史を知っていると、Adobeがいち早くiPad用のPhotoshopの開発を始めたというのも自然な流れという気がしますね。
その他の重要なキラーアプリは、QuarkXPress(クォーク・エクスプレス)。ページメーカーと同じ種類のアプリで、現在も引き続き販売されています。
クリエイターがMacを選ぶ理由のまとめ
クリエイティブな仕事につく人たちの多くがMacを選ぶ理由について、わずらわしさからの開放、デザイン、伝統という切り口から解説しました。
クリエイティブな仕事をするには、創造的な感覚を保持しながら試行錯誤をなんども繰り返すプロセスが必要不可欠です。この長いプロセスでは、単純に便利に使えるということよりも、仕事に集中させてくれることが非常に大切になります。
ですから、面倒な設定やアップデートなどを最大限ユーザーの負担にならない形で実行してくれるMacがクリエイターの支持をえているのは当然でしょう。
また、Macは見た目が美しいだけでなく、「使いやすさ」や「わかりやすさ」というユーザー経験も細部まで設計されている点も重要です。
最後に「Macはクリエイターが使うもの」という1980年代に形成された伝統が、他の2つの理由と組み合わさることで、クリエイティブ系からの支持を絶対的なものにしています。
以上から、今後、機能や見た目においてWindowsがMacに追いつくことがあってもクリエイティブ系がMacを選ぶ傾向は続くでしょう。