「階下のうなぎ屋の匂いをおかずに白ご飯を食べる」そんな嘘のような本当のような話がありますが、美味しい匂いの煙を上手く使ったのがベーコンなどの燻製です。通常燻製を作る時には、食材を塩漬けしますがこの方法には大きく分けて2つの方法があります。
乾塩法と湿塩法と呼ばれるものです。
それぞれに長短がありどちらが良いかは人それぞれですが、2つの方法の違いとレシピを紹介します。
乾塩法(かんえんほう)
乾塩法は名前通りに液体を使わずに塩を直接食材にすり込んで保存する方法です。具体的には下記の材料を全て混ぜて食材に手ですり込みます。湿塩法で使う塩水を作る必要が無いので手軽ですが、漬け具合が不均一になりやすいという欠点があります。
材料
肉1kgに対する分量
- 塩:20g (肉の重量の1.5-3%程度)
- 砂糖:8g(塩の20-100%程度)
- コショウ小さじ½
オプション
- タイム・ローズマリー各種ハーブ類
- 亜硝酸ナトリウム
塩
塩は基本的にはどんな種類でもかまいませんが、食卓塩よりも粗塩などの結晶の大きい物の方が水分の吸収に適しているために好まれる傾向があります。塩の量は保存期間の長さで調整し、燻製後すぐに食べるものは1.5%でかまいません。
砂糖
砂糖は塩辛さを和らげるだけでなく、食材に風味を与えてくれる重要な調味料です。燻製のときにメイラード反応(肉を焼いたときに色が変わる現象)と呼ばれるアミノ酸と糖質の結合がすすむため、食欲をそそる風味が生まれます。
どんな種類の砂糖を使ってもよく、砂糖の代わりに蜂蜜を使う場合もあります。甘さを感じない程度の味付けにしたい場合は塩の30%程度に抑え、ハニーベーコンなど甘みを付けたい場合は多めに入れます。
コショウとハーブ類
コショウとハーブ類は肉の臭みを消すために適量加えます。
亜硝酸ナトリウム
亜硝酸ナトリウムはあまり聞き慣れない物質かもしれませんが、日本で売られている加工肉類のぼすべての製品にボツリヌス菌抑制及び発色剤として使われています。しかし、亜硝酸ナトリウムは日本で劇物指定を受けているので、薬剤師等の指定業者以外からは購入できません。
加熱なしで食べる肉類には必須の材料ですが、ベーコンなど十分に加熱して食べる燻製で長期間保存しないものは無くてもかまいません。
サラミなど生食用の燻製を作りたい場合は、安全とされている分量等をよく調べてから使うようにしてください。食品衛生法では残留量(使用量ではない)が70ppm。つまり、1kgの肉に対して70mg以下とされています。
湿塩法(しつえんほう)
湿塩法はソミュール法とも呼ばれ、ソミュール液と呼ばれる塩水に食材を浸して保存する方法です。均一に漬かるのでハムやベーコンなど大きな肉の塊を準備する場合に適しています。
湿塩法をさらにソミュール液とピックル液を使う方法にわけることもあります。2つの違いは、ソミュール液が単純な塩水にスパイスを加えた液体であるのに対して、ピックル液はソミュール液をベースに他の香辛料やアルコールなどを加えて加熱調理した液体だということです。
基本的にピックル液はソミュール液の変化型と考えられるので、ここではどちらもソミュール液と呼ぶことにします。
ソミュール液を使った塩漬けの方法
1.下記の分量の塩と砂糖を常温の水に溶かしてから、溶液を沸騰させます。
2.沸騰したらオプションの材料を入れて、10-15分程度煮てから火を止めてさまします。
3.冷めたら、食材を入れたプラスティックのバッグやビンに食材が完全に浸る量のソミュール液を注ぎ冷蔵庫で保存するだけです。
材料
水1リットルに対する分量
- 塩 100g(水の5-20%程度)
- 砂糖 40g(塩の20-100%程度)
オプション
- コショウ 2-3粒
- セロリの葉&パセリの茎 2-3茎
- ベイリーフ 2枚
- タイム 2-3g 又は一房
- ローズマリー 2-3g 又は一房
- クローブ 3粒
- ジュニパーベリー 2粒又は、ジン 大さじ1
- 亜硝酸ナトリウム
ソミュール液
ソミュール液の塩加減は塩漬けにする期間及び漬ける食品により変更します。基本的に塩分が高いほうが塩漬け効果が早く出るので時間の短縮が可能です。逆に塩分を低めに抑えると、より均一に塩漬けができることと、塩抜きの時間を短縮できる利点があります。
具体的な濃度と漬け込み時間については、次の表を目安にしてください。
材料 | ソミュール液塩分濃度 | ソミュール液漬け込み時間 |
豚肉・牛肉 | 10~15% | 1~2週間 |
鶏肉 | 5%程度 | 24時間未満 |
たまご | 2%程度 | 12時間未満 |
サーモンなど(時短調理) | 25%程度 | 1~2時間 |
サーモンなど | 10%程度 | 12時間未満 |
ソミュール液自体は塩分にもよりますが、冷蔵庫で1ヶ月程度は保存できます。
各食材の具体的な塩漬けの方法については、以下のリンクを参照してください。
香味野菜
セロリの葉やパセリの茎は香りづけだけでなく、煮こむことで亜硝酸ナトリウムを抽出する目的で使います。
先述の通り亜硝酸ナトリウムは日本での入手が難しいため、この野菜から取る方法が簡単です。アメリカとヨーロッパの一部で販売されている「instaCure」という亜硝酸ナトリウムを一定量混ぜてあるピンク色の塩が入手できる場合は、そちらを使う方法もあります。
ハーブ類
肉の臭み消しのために使うハーブ類は乾燥した物を使ってもいいですし、ローズマリーとタイムに関しては庭やプランターで育てている物を10cm位を切り取って使ってもよいです。
聞き慣れない名前のジュニパーベリーは、ヨーロッパで肉の臭み消しによく使われる香辛料です。ベリーという名前はついていますが、種類としては松の実の仲間でお酒のジンの香料としても使われています。ジュニパーベリーはオンラインで普通のハーブ類と同じように買えますが、ジンで代用してもかまいません。
また、ジュニパーベリーやジンの代わりにバーボンを使うレシピもあるので、お好みで選択してください。
おまけ
ソミュールという聞き慣れない言葉の語源が気になった方もいらっしゃると思いますが、語源はフランス語の名詞「samure (塩水)」から来ています。「samure」は動詞でもあり英語で言えば「to pickle(塩漬けにする)」の意味です。
ネットで調べるとソミュールの語源をフランスの都市の名前の「Samur」と推測しているものが多数ありますが、完全に考え過ぎですね。また、塩水は英語で「brine (ブライン液)」と呼びます。
まとめ
乾塩法もソミュール法も基本は塩の効果で食材の水分を減らすことでバテクリアの増殖を抑え、旨味を凝縮するのが目的です。
乾塩法は必要な塩と砂糖が少量ですみ準備も簡単なので、少量の食材(500g~1kg程度)を塩漬けしたいときに適した方法です。それ以上の量または、均一な味に仕上げたいときは、ソミュール法がより適しています。
ここで紹介したレシピはより多くの種類の食材に対応するためにカッコ書きで塩と砂糖の分量に幅を持たせました。日持ちを重視して作る場合や、つかりにくい脂肪層が多い材料(ばら肉など)を漬けるとき以外は、塩分を抑える方法が塩抜き作業に時間がかからないのでおすすめです。
ソミュール法で複数の食材を塩漬けにする場合は、濃度の高い溶液を最初に作り、それを食材に合う濃度になるように水で薄めて使ってください。
また、亜硝酸ナトリウム以外のオプション材料は、すべて揃える必要がないという意味でオプションとしましたが、肉の臭みを消すためには必須の材料です。スーパーで大抵のハーブは手に入るので、ここのレシピを基本にして好きなハーブを使って試してみると良いと思います。
亜硝酸ナトリウムは生食用の燻製を作る場合を除き、野菜から抽出して少量とる方法で十分です。肉の本来の鮮やかな色を保ってくれる(着色ではない)ので、切り口がきれいに仕上がります。
これから燻製をやりたいと思っている方はぜひ参考にしてください。