みなさんお風呂は好きですか?
お風呂に入らないと1日が終わらないという人もいれば、夏はシャワーだけで冬は風呂という人もいるでしょう。どの家庭でもお風呂は使う水の量も多く、温水を作るのにガスも使うため、水道光熱費の中で占める割合が大きいのが特徴です。
そのためか、節約やエコ関連でお風呂の入れ方がよく話題に。
水の節約の「おいだき派」とガス効率重視の「毎日入れ替え派」で、どちらがエコなのか意見がわかれます。このよくある疑問に答えるために、1)公式データによる比較、2)現実的な比較実験を行いました。
結論はズバリ次のとおりです。
- エコなのは「入れ替え派」
- 光熱費が安いのは「おいだき派」
- LPガスの場合は基本的に入れ替えがエコで安い
- 地方の1人または2人世帯は、入れ替えがエコで安い
この結果は大部分の方に当てはまりますが、ガスと水道の供給会社、世帯人数、給湯器の違いなどで変わる場合もあります。
一般的な結論が知りたい方はここで終了ですが、ほとんどの方は自分(の家庭)に当てはめたときのことを知りたいですよね?
その点について、どのパターンが自分に当てはまるのかについて判断するために、比較に利用した具体的なデータや条件について詳しく見ていきましょう。
公式データによる比較
おいだき:毎日お湯を入れ替えないで、前日の残り湯を温め直して入れる
光熱費=おいだきにかかるガス代のみを計算
毎日入れ替え:毎日お湯を入れ替えて、給湯で風呂を入れる
光熱費=水道代+給湯にかかるガス代を計算
比較の条件
- 東京ガス&東京都水道局を利用
- 風呂の水量:200リットル
- 水温:冬場で水が15度に下がった状態から40度まで上げる
- 給湯温:40度
ガス代
東京ガスのウェブサイトの情報を引用するとガス代の差は次のようになります。
方式別のガスの使用量と所要時間
方式 | ガス使用量 | 所要時間 |
入れ替え(給湯式) | *81.4円
(0.58㎥) |
8.1分 |
おいだき(風呂釜式) | *95.4円
(0.68㎥) |
35.2分 |
※元のデータのURLはリンク切れのため確認不可 (tokyo-gas.co.jp/ultraene/data_bathroom01.html)。
※価格は2020年2月の標準世帯の30㎥を使用した場合の単価から再計算済
風呂を入れる時間はおいだきの方が4倍ほど長いですが、ガス代の差はそれほど大きくなく14.0円です。
いずれにしても価格差が小さいので、200リットルの水道代しだいで、おいだきと入れ替えどちらが安いかはっきりします。
水道代
水道代は使えば使うほど値段が上がっていく方式なので、東京都水道局による1人、2人、4人家族の平均使用量を用いてそれぞれの値段を計算します。
以下の表をみるとわかりますが、水道代はガス代と比べる激安。
1人暮らしの1回の風呂の水道代は、たったの17.2円!2リットルのペットボトル100本分の水がこんなに安いのにびっくり。
「湯水の如く使う」という表現が納得できる値段ですよね。
世帯人数 | 水の使用量 / 月 | 1000リットルあたりの値段 | 風呂1回あたりの値段 |
1人世帯 | 8㎥ | 86円 | 17.2円 |
2人世帯 | 16㎥ | 159円 | 31.8円 |
4人世帯 | 26㎥ | 215円 | 43.0円 |
※1㎥=1000リットル
※値段は下水料金を含み、基本料金を除く
※消費税10%込
毎日の風呂にかかる光熱費(ガス代+水道代)の目安
次の表にまとめたとおり、風呂を入れるために使う光熱費は100円から130円程度です。
風呂の光熱費は、風呂の入れ方によるガス代の違いよりも、水の使用量の違いが大きいため利用人数に関係なく、おいだき方式が入れ替え方式よりも少しだけやすいという結果となりました。
おいだき | 95.4円 |
入れ替え(1人世帯) | 98.6円 |
入れ替え(2人世帯) | 113.2円 |
入れ替え(4人世帯) | 124.4円 |
この結果は、東京ガスが公表している最新の給湯器を使った実験値を元に計算した数字なので、必ずしも一般の家庭に当てはまるわけではありません。
そもそも、日本人のほとんどは、東京都以外に住んでますからね。ただ、東京ガスのサービスエリア内の関東圏は東京の結果をそのまま当てはめてもらっても問題ありません。
問題はその他のエリアです。
そこで次は、関東以外のエリアの場合に結果がどう違うか見ていきます。東京周辺にお住まいの方は関係がないので、こちらから筆者の住む東京での実際の実験結果の項目に飛んでください。
大阪を中心とした関西エリアの場合
関西でガスを供給しているのは、大阪ガスです。規模としては東京ガスにつぐ2番目の大きさで、大阪を含む2府5県にガスを提供しています。
水道局に関しては個々の市町村が提供しているため、関西で一番大きい大阪市水道局のデータを使って比較してみましょう。
結論としては、関西で1人暮らしなら「入れ替え」、2人世帯以上なら「おいだき」です。
関東圏と結論が異なるのは、単純に大阪ガスの方が東京ガスよりも1㎥あたりのガスの値段が高いから。
東京ガスと大阪ガスの単位当たりのガスの値段
世帯人数 | 東京ガス | 大阪ガス |
1人(20㎥未満) | 145.31円 | 174.81円 |
2人以上(30㎥) | 140.36円 | 164.71円 |
関西圏の方は東京に住んでいる人よりも1人世帯では20%、2人世帯では17%も高いガス料金を払っている計算になります。もちろん基本料金や料金体系が多少異なりますが、これほど単価が異なるのは、おどろきですね。
ただ、水道料金は大阪市の方が東京都よりも安いので、風呂の1回の値段で言えば1人世帯で+17%、2人世帯+14%ぐらいに収まっています。
その他の地方の場合
関東でも関西でもないエリアは、水道局もガス供給会社も大量にあるためすべてを網羅することはできませんが、次のようなことが言えます。
- 1人世帯は入れ替えが有利
- 4人世帯以上はおいだきが有利
- 2人世帯はおそらく入れ替えが有利
- 3人世帯はおそらくおいだきが有利
つまり、世帯人数が2人と3人の間ぐらいで、「おいだき」と「入れ替え」の価格差が逆転するということ。
理由はガスの単価が使用量が増えるごとに安くなるのに対し、水道代は高くなるからです。
地方は小さい会社がガスを提供するため、東京に比べてガスの価格が高くなる傾向があります。
実際、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス(名古屋)の年間販売量と価格を比較すればその傾向は明らかです。
東京ガス | 大阪ガス | 東邦ガス | |
年間販売量(10億㎥) | 15.2 | 8.0
-47% |
3.9
-74% |
1㎥あたりの値段
30㎥使用の場合 |
140.36円 | 164.71円
+17% |
196.69円
+40% |
※30㎥は東京ガスの発表による標準家庭の月のガス使用量
ガスを含む光熱費の料金は全国民に影響するため、営利企業と言えども勝手に値段を買えることは許されていません。その代りに、原価を元に値段が調整されます。
つまり、元々の購入料金が高ければ、それを利用者に転嫁してもよいということ。
常識的に考えて大量に購入すれば、単価が下るというのはわかりますよね。ですから、東京ガスに比べて圧倒的に規模が小さい地方のガス会社は値段が高いんです。
では、水道料金はどうかというと、ガス料金のように単純ではありません。というのも水道は各地方自治体が管理しているからです。
前述の通り、水道代は規模が大きい東京都水道局よりも大阪市水道局の方が安い結果となっています。ただ、名古屋市上下水道局の価格を見る限り、小さい自治体のほうが安いというパンターも当てはまりません。
どこの水道局にもあてはまるのは、使えば使うほど単価が上がっていくという点だけです。
よって、地方に関しては、世帯人数によって「おいだき方式」か「給湯方式」のどちらを選ぶべきかは異なるという結論になります。
以上が公式データを使った比較です。
ただ、理論値と日常の利用では結果が異なることも多いため、筆者自身も実際に比較実験を行いました。1人暮らしの場合シャワーだけで済ます方も多いと思うので、風呂を入れずにシャワーのみを使う方法についても比較対象となっています。
おいだきと給湯の光熱費の比較実験
条件
- 東京ガス&東京都水道局を利用
- 給湯器はおそらく10年ぐらいたっていると思われる物
- 風呂の水量:約155リットル
- 水温:13度から42度まで上げる
- 給湯温度:42~43度
- ガス使用量:メーターで確認
風呂のガス使用量と所要時間の結果
方式 | ガス使用量 | 所要時間 |
入れ替え
(給湯式) |
0.650㎥ | 18.5分 |
おいだき
(風呂釜式) |
0.652㎥ | 52.8分 |
シャワー | 0.22㎥ | 6.3分
水:約50リットル |
東京ガスのデータと違い、お風呂の入れ方によるガスの使用量に差がほとんどないが変わらない結果になりました。給湯器の性能の差というよりも水量の違い(22.5%減)が大きくでています。
ガス代の差がないので、実験でも水を使わない分だけおいだきのほうが光熱費が安くなるということがわかりました。また、使用時間にもよりますが、筆者のように長湯しないタイプはシャワーが圧倒的にエコです。
風呂のおいだきと給湯に関するまとめ
節約やエコの観点からよく比較されるお風呂の「入れ替え」と「おいだき」について検証しました。
日本で最大のガス会社の東京ガスのサービス地域では、水温が下がる冬場であっても、おいだきの方が数円から数十円安いことがわかりました。関西圏では、ガスの単価が高いため、1人世帯に限り入れ替えの方が安くなっています。
その他の地方は、ガスと水道の供給元がバラバラなため正確には言えませんが、1-2人世帯は入れ替え、4人世帯以上はおいだきという選択になるでしょう。
ただし、関東圏であってもプロパンガス(LPガス)を使う場合は、ガスの料金が都市ガスの1.6倍ぐらいになるので、1人暮らしでは給湯のほうが優位です。
タイトルを読み直してもらうとわかりますが、この記事はどちらの方法が安いかということよりも、どちらがエコなのかということに注目しています。普通に考えれば、光熱費が安い=エコ・サステイナブルとなりそうですが、かならずしもそうなるわけではありません。
光熱費に関しては、水道料金の差でおいだきに軍配が上がりましたが、水は基本的に再生可能な資源であるのに対してガスは再生不可能資源。
エコで節水がさけばれているのは、水そのものが化石燃料のようにいつかなくなってしまう物だからではなく、浄水場の運転等で電気が使われるからです。浄水場で使われる電気が少ないとは言いませんが、砂漠の国と違い日本は河川から水をひいています。
ではガスはどうかというと、日本はガスを9割以上輸入に頼っているんです。掘削にかかるエネルギーに加えて、輸送にも大量のエネルギーが消費されます。特にLPガスは日本国内でもトラック輸送があるので、二酸化炭素の排出量では水と比較になりません。
以上よりエコやサステイナビリティの観点からは、少量であってもガスの使用量が少ない入れ替え方式がおいだき方式よりも望ましいです。節水しなくても良いわけではないので、お風呂の残り湯を庭の水撒きや洗濯に使うなどの工夫をするとより良いと思います。次にお風呂を入れるときの参考にしてください。