テレビ番組などの動画にお金を払う習慣のなかった日本でも、最近はずいぶんNetflixなどの定額制動画配信サービスが浸透してきました。
むしろ、サービスを提供している会社が多すぎて選びきれないぐらいかもしれません。かくある動画配信サービスで人気を集めているのが、Netflix、Amazonのプライムビデオ、Huluの3つです。
それぞれのサービスを配信している動画の数を比較しておすすめを書いているサイトがたくさんありますが、ユーザーの視点からすると少しずれています。というのも興味のない映画・ドラマがたくさんあるサービスよりも、自分の好きな動画があるかないかの方が重要だからです。
また、どのサービスも配信しているコンテンツのリストを公開していないため単純比較もできません。
そこで、それぞれのサービスのコンテンツの質や特徴についてビジネスの観点から比較する方法で、3つの違いを明らかにしようと思います。
比較のポイントは次の3つ。
- サービスの提供地域
- 企業内での動画配信事業の位置づけ
- サービスの規模
これらの違いを理解すれば、Netflix、Amazonプライムビデオ、Huluの違いがバッチリわかるはずです。
サービスの提供会社
ビジネスモデルの違いを説明する前にまず、どの会社がどの定額制動画配信サービスを提供・所有しているのか見てみましょう。
NetflixとプライムビデオはそれぞれアメリカのNetflix, Inc.とAmazon.com, Inc.が提供しているサービスで、Huluは日本テレビホールディングスが所有しています。
ここで、「Huluはアメリカのサービスじゃなかったっけ?」と思った方もいると思いますが、Hulu ジャパンとアメリカのHuluは資本が異なるため別物として考えます。
Huluが日本に初上陸した当時はまだテレビ番組にお金を払ってみるという感覚が多くの日本人にはなく、苦戦を強いられました。そこで、2014年に日テレが日本での権利を購入したというわけです。
ですから、この記事でのHuluはHuluジャパンのみを指すことに注意してください。
ちなみにアメリカのHuluは実質ディズニーが所有しているため、Disney+が家族向け、Huluが大人向けという棲み分けがされています。
サービスの提供地域
各社が動画配信サービスを提供している国と地域は次のとおりです。
- Amazon:200以上の国と地域
- Netflix:190以上の国と地域
- Hulu:日本
日本の外務省が認定している国の数は195カ国なので、実質AmazonとNetflixは全世界でサービスを展開しているのに対し、Huluだけは日本のみです。
この違いが配信するコンテンツの種類や質に大きな影響を及ぼすのは明らかですよね。Huluは日本のユーザーが喜ぶコンテンツだけに集中して制作・取得すればよいわけですから。逆にAmazonとNetflixにとって日本のユーザー専用のコンテンツはおまけです。
企業内の動画配信事業の位置づけ
「なんか難しそうな話だな」と思った方安心してください。シンプルに言い換えると、動画配信サービスが本業なのかサイドビジネスなのかとうこと。
例えば、スーパーなら食品販売が本業ですが、デパートではデパ地下の食品販売は本業ではないといった具合です。
まず、3つの会社の中で一番シンプルなNetflixを見てみましょう。
Netflix
Netflixは、動画を配信し、ユーザーが払うサブスクリプション費用を徴収することで100%なりたっている会社です。ですから、サブスクリプション契約者が増えれば増えるほど利益も増えるという動画配信の専業ビジネスです。
日テレ
日テレは、テレビ放送の会社ですから動画を配信するという意味でNetflixに似ています。しかし、ビジネスモデルはまったく異なります。
日テレは、テレビを無料放映し、スポンサーから広告費を集めるのが仕事。有料の動画配信サービスはのHuluは言ってみればサイドビジネスなんです。そのことは筆者が勝手に想像しているわけでもなく、日テレの決算報告書の数字をみれば明らかです。
Hulu以外にもTVerというサービスも提供しているので、Huluのみの正確な売上は不明ですが、2020年3月の決算報告書によればコンテンツ販売収入は売上全体のたったの16%。Netflixの100%とは比較になりません。
さらに、2019年の契約者数である200万人から再計算すると、上記の16%は6%未満まで下がります。消費税よりも低い割合です。
Amazon
最後にAmazonは他の2つとはかなり異なるビジネスです。
Amazonは、アメリカや日本などEコマースの事業を行っている世界17カ国ではプライム会員の特典の一部として動画配信サービスを提供しています。つまり、プライム会員の価値を高めればよいので、かならずしも動画配信サービスで利益を生み出さなくてもよいわけです。
ただし、その他の多くの国では動画配信サービスのみを独立した形で提供しているので、Netflixと重なる部分もあります。
以上から同じ動画配信サービスであっても、各企業内での位置づけはまったく異なることがわかります。
動画配信サービスの規模
各社の動画配信サービスの違いを理解するには、ビジネスモデルの違いだけでなくその規模の違いを理解するのも大切です。
通常、規模を比較する場合は売上高を考えますが、ここでは動画配信サービスにおけるコンテンツの質・量を推測するために各企業の制作費に注目します。
まず、制作費の大きさを円で表した、次のイメージをみてください。イメージ内の数字はNetflixの制作費を100%として他の2つの割合を示しています。
Netflixの制作費の多さが圧倒的であることが瞬時にわかりますよね。いくら専業とサイドビジネスの違いはあるにしろこの違いは驚きです。
具体的にNetflixとAmazonが2019年にコンテンツ制作・取得にかけたコストはそれぞれ、1.57兆円と8400億円です。日テレは制作費を細かく公表していないので、Netflixの売上高と制作費の割合と同じだと仮定して、契約者数200万を使って計算すると178億円。
ちなみに、1.57兆円を売上の規模で考えれば、Yahooファイナンスによると東京証券取引所で1部上場している会社のトップ100レベル。具体的には、ヤマト運輸ぐらいの規模です。
つまり、Netflixは、日本の超一流とされている企業が1年間に売り上げるお金をすべて動画制作するためだけにつぎ込んでいるということです。
ここまでで、Netflix、プライムビデオ、Huluのビジネス的な違いを見てきましたが、次はこの情報でどのような傾向が導けるか考えてみましょう。
コンテンツの質とサービス全体の傾向
専業かサイドビジネスかの違いはありますがどの企業も契約者を増やしたいはずです。
契約者を増やす方法はたくさん考えられますが、誰でもすぐに思いつくのは次の3つの方法です。
- 価格を下げる
- コンテンツの数を増やす
- コンテンツの質を上げる
そして、すでに見てきたビジネス的な違いから、Netflix、プライムビデオ、Huluの3つは異なる戦略をとっており、それがコンテンツの質とサービスの傾向として現れています。
Netflix
Netflixは、動画配信の専業ですから、契約者を増やすだけでなくきちんと売上を増やす必要があるため、価格競争はできません。
実際、NetflixはHuluとプライムビデオよりも高い価格設定になっています。
ではコンテンツの数はどうでしょうか?
数字上は、10万と30万のコンテンツの見放題なら、後者がお得ですよね。しかし、実際のユーザーの満足度を考えると、コンテンツの数にはほとんど意味がありません。
なぜなら、物理的に年間で視聴できる動画の数は限られているからです。1日6本のドラマを365日見ても2190本にしかなりません。つまり1万本映画・ドラマのエピソードがあれば、5年間は楽しめるということです。
規模としては圧倒的に小さいHuluでさえ何万という動画が視聴可能なので、視聴できる動画の数だけに集中してもサービスの差別化はできません。
ではNetflixがどのように他のサービスとの差別化を図っているかというと、「オリジナルコンテンツ」の制作です。
どうしても見たいコンテンツがNetflixでしか見れなければ、契約してみようかなと思いますよね?
とりあえずそのコンテンツを見終えるまでは契約して、他に興味を持てるものがなければ解約すれば良いという人は少なくないはず。Netflixとしては、そのコンテンツを見終わったあともサブスクリプションを継続してほしいので、また新しいオリジナルコンテンツをリリースします。
ここで、重要になってくるのが制作費。
契約者を引き止め続けられる高品質のコンテンツを大量に作るには、最高の制作陣と俳優が必要だからです。Netflixのオリジナルの質の高さは、アメリカでアカデミー賞・ゴールデングローブ賞などで数々の賞にノミネート・受賞していることが証明しています。
また、Netflixは世界中でサービスを提供しているので、ハリウッド的なドラマや映画だけでなく、その地域にあったコンテンツにも制作費がまわされていることも見逃せません。
Netflixオリジナルの日本のドラマがそのよい例です。
以上から、Netflixの強みは、高品質のオリジナルコンテンツ。ただし、コンテンツの多くはどうしてもアメリカのドラマ・映画が多いです。日本のドラマ・アニメがたくさん見たいという人は別のサービスがよいでしょう。
Hulu
Huluは他のサービスと比べると制作費・放映権の取得費が圧倒的に限られているということと、ターゲットが日本だけというのが最大の特徴です。
使えるお金が限られている中で、NetflixやAmazonと競争するにはどうすればよいでしょうか?
高品質な作品の数では他のサービスには絶対にかなわないのは明白です。また、テレビ放送が本業ですから、本業に影響しない方法でなければいけません。
では、どうするかというと、外部の人気のあるコンテンツの放映権を短い期間だけ取得して、レンタルビデオのように見せる方法が使われています。
「3/31日まで」のように緑でデカデカと表示してユーザーの目を奪い、期間が限定されていることでお得感を感じる人間の傾向をうまく利用しているんですね。こうすることで、ユーザーの満足度を犠牲にすることなく、放映権の維持コストを下げらるので一石二鳥。
また、配信期間の設定も絶妙で、スターウォーズなどのシリーズ映画の最新作が映画館で上映される時期に合わせて、過去の全シリーズが配信されます。こうすることで、新作映画に興味を持った人を無条件でそのシリーズに惹きつけることが可能です。
さらにすごいのが、シリーズものでも古いコンテンツは放映権が安いことをうまく利用している点。予算が限られている中では最高の戦略でしょう。
ただ、逆に言えば、世間の流行とは関係なく、なんとなくあの映画やドラマが見たいというときには、配信が終了しているということも。実際、筆者のマイリストが「配信終了」の映画・ドラマだらけになっていたことがあります。
期間限定のコンテンツが多いこと以外には、視聴者ターゲットが日本だけということも重要なポイント。日本人が好むものだけを制作・配信すればよいわけです。
ですから、制作費が安く済む割に人気のあるバラエティ番組やテレビで放映し終わったドラマがかなり配信されています。実際、メニューにも「見逃し」というジャンルが用意されているぐらいで、テレビと合わせて楽しむサービスという意図が大きく反映されています。
Amazon
Amazonはコンテンツの種類・配信期間・質などは全体的にNetflixとHuluの中間ぐらいです。
プライムビデオが他の2つと最も違う点は、レンタルビデオと見放題のコンテンツが混ざっていること。しかも、無料で見れるコンテンツとレンタルが結構入れ替わります。予算の問題というよりは、視聴回数やDVDの売れ行きのデータを集めてテストしているという感じ。
個人的に、うっとうしいと感じるのは、動画再生の前にたまに広告が入ること。広告と言っても商品ではなく番組の宣伝ですが、99%興味がないコンテンツの宣伝なので困ります。
オリジナルコンテンツに関しては、Netflixと同様で前述のとおり、かなりの予算を割いて制作にあたっており、個人的におすすめのトム・クランシーの『ジャック・ライアン』のほか、2017年のゴールデングローブ賞を受賞した『マーベラス・ミセス・メイゼル』などの注目作品が制作されています。
プライムビデオでもう一つ注目したい特徴は、比較的新しい映画がすぐに配信されること。予算がたくさんあるので、時間が立って放映権が安くなるのを待つ必要がないのでしょう。感覚的には、映画館で放映された1年後ぐらいが目安です。
まとめ
Netflix、プライムビデオ、Huluの違いをビジネスの違いから解説してきました。
まず、Netflixは、動画配信サービスの専業ビジネスであるためコンテンツの質・量ともに他を圧倒しています。特にオリジナルコンテンツが充実しており、世界中で最も多くのユーザーを獲得しているのも当然だと感じます。
問題はコンテンツが有りすぎて、どれを見てよいのかわからなくなることでしょう。
次に、Huluは日本の企業が運営しているだけあって、日本のテレビっ子が喜ぶ日本独自コンテンツが満載。また、期間限定配信などユーザ体験もテレビ的なので、ある意味で馴染みやすいかもしれません。
ただし、海外映画はあまり新しいコンテンツがないので、映画好きにはものたりないでしょう。
最後にプライムビデオは、Amazonのプライム会員の特典としての意味あいが強いため、NetflixやHuluほどあまり特徴がありません。新しい映画やオリジナルコンテンツなどおもしろい動画もいくつかはあるので、他のストリーミングのサブ的に利用するのがよいです。
動画配信サービスの選択する際の参考にしてください。